『盗賊サンタといい子のごほうび』

 

 

 

「ボス、サンタクロースってなんですか?」

メルヘヴンでも聖夜と詠われるその夜を祝う宴の席。
小首を傾げながら走りよってきたチャップがナナシに尋ねた。
どうやら以前、ナナシが戯れに教えたことを覚えていたらしい。
ナナシは椅子の背凭れを跨ぐように座りながら、無邪気なチャップの視線に応えるようにその瞳をほそめる。

「サンクロースっちゅうんは赤い服着た白いひげのじーさんでな。ええ子にプレゼント届ける為に聖夜の夜にめっちゃ寒い国からやってくるんやで」

チャップはええ子やからきっとサンタさん、来てくれるで。
ナナシは得意げにチャップに話しながら、その手のひらに収まる小さな頭をくりくりと撫でる。

「ホントですか!?ボス!! サンタさんはいつチャップのところに来てくれるんですかねー♪」

純粋なチャップはナナシの話を聞いてその大きな瞳をキラキラと輝かせる。
ナナシは人差し指を立てて口元にもっていくと、笑みを浮かべてウィンクした。

「サンタさんはええ子が寝ている間にプレゼントを置いていくもんなんや。せやからチャップ、はよ寝なアカンで」

しかし、チャップよりもそれを聞いていた他の同志たちのほうがその瞬間どよどよと色めきたった。

「寝ている間に誰にも気取られる事無くプレゼントを置いていく…だと? どんだけすげぇヤツなんだサンタ……」

「てか忍び込んでエモノ盗らずに置いていくなんて、どんな物好きだよ?」

「それに私達指名手配されてる盗賊団なんですけど。そもそもいい子じゃないでしょ」

喧々諤々とはこの事だ。
いくら敬愛するボスの言う事とはいえ、俄かには信じがたいのか口々にサンタクロースへの不信に同志たちは口々に騒ぐ。
特にスタンリーの言葉にチャップは「そ、そんなぁ…」と思わず肩を落としてしまった。
するとその時。

「おい、あまり子供をからかうんじゃない」

ガリアンだ。
酒が入って気が大きくなっている同志を落ち着いた口調で嗜めながら、嘆息をひとつ零す。
そんなガリアンに皆一様に肩を竦めて見せ、冗談ですよ、と笑い混じりにアピールする。

 

ルベリアにガリアンが復帰して一年。
最初こそ致し方ない溝があったものの、ガリアンはこの一年非常にに誠実に同志たちに接した。
その甲斐あってか、今では随分とルベリアに馴染んでいるのが伺える。
いや、元々ここが彼の古巣なのだからその色にガリアンが馴染むのは必然だったのだろう。

「ナナシも冗談はそれくらいにしてやれ」

穏やかな笑みでナナシに笑いかけるようにも、なった。
戻ってきたばかりのときは、複雑そうな表情でナナシを見つめるばかりだったのに。

「………ふーん」

ナナシはそんなガリアンをじっと見つめると、やがて肩を竦め、まるで悪戯っ子のような微笑でガリアンを見やった。

「サンタクロースは、ほんまにおるで」

「ナナシ?」

ガリアンはそんなナナシの言葉に思わず首を傾げるが、しかしそれよりも蠱惑的なナナシの微笑みにガリアンは僅かに頬を染めてどぎまぎしてしまった。
ナナシは椅子から立ち上がるとチャップの頭を撫でながらしゃがみ込み、その大きな瞳を覗き込む。
そしてまるで皆に言い聞かせるように言った。

「ええ子のところには、必ず来てくれる」

その意味深な言葉には、強い自信があったのだった――――――。

 

 

*    *    *

 

翌朝。

ルベリアの同志たちは皆が皆一様に驚愕の表情を浮かべて、各々ベッド脇のサイドチェストを見つめた。
そこには色とりどりにラッピングされたプレゼントの箱が。

「ちょ、ちょっとぜんぜん気付かなかったんだけどー!!?」

サンタクロースったらいつ来たのよー!!
そう妙に上ずった声を上げながら、寝癖を乱暴に押さえつけ興奮し気味にスタンリーがギルドのホールに走ってきた。
手にはしっかりとプレゼントを持って。

「チャップにもちゃんとプレゼントあったですー♪♪」

リボンのついたくまのおおきなぬいぐるみを抱え、チャップはひどくご機嫌だ。
ルベリアのホールは瞬く間に、自分のプレゼントはこれだったの、あれだったのとプレゼントを見せ合う同志たちの声と笑い声で賑やかになる。
そんな群集を、ホールを見下ろせる二階からナナシは見守るように見ていた。

「で、あんたはサンタクロースから何もらったん??」

目は階下の同志たちを追いながら、ナナシはうしろのガリアンに声をかける。
するとガリアンはそっとナナシの横に並び立ち、手のひらに収まるほどの小箱のフタをそっと開けた。

「これは一体なんだろうか?」

怪訝そうなガリアンの声に、一瞬ナナシも眉根を寄せて横目でそれを視認する。

「なにって…、どっからどうみても『鍵』やと思うけど?」

小箱の中には、鍵が入っていた。
銅色の、何の変哲も無いありふれたデザインの鍵。
当然とばかりにナナシは言い放つと、ガリアンをにやにやと見つめた。

「……やはり、そうか」

ガリアンはナナシの返答に自分の考えが間違っていないことを確認すると、ぐっと困ったようにくちびるを引き結んだ。
その表情には、なんで鍵なんだ?、そもそもこれはどこの鍵なんだ?、という疑問がありありと見て取れる。
ナナシはおもしろそうに目を細めた。

「とりあえず手始めに、ギルド中の鍵穴にその鍵差し込んでみたらどや?」

盗賊なんやし、そんなもんお手のもんやろ、とナナシは事も無げに言ってみせる。
ガリアンは一瞬その大変面倒くさいであろう作業を想像してか、とても嫌そうな顔を浮かべたが、それは突然ふっと近づいたナナシによって押し込められた。
鼻先が擦り合うのではないか、という距離でナナシは囁く。

「サンタクロースがガリアンにって贈ったもんなんやから、きっとええモンやで」

きっと、な。
ナナシはそう言ってガリアンの肩をぽんぽんと叩くと、後ろ手に手を振りながら踵を返した。

「ま、がんばりや――――せっかくの一年間、ええ子でおったご褒美やで」

ナナシはそう言うと、呆気に取られている様子のガリアンを残し、意気揚々と鼻歌交じりに階下の同志たちの輪へと降りていった。

 

 

ガリアンが、あのサンタクロースからのプレゼントがナナシの部屋の鍵だと知ったのは数日後、それはまた別のお話―――――――。



 


クリスマスフリーイラスト裏話。
復帰してすぐイチャコラしちゃうルベリア夫妻も萌えるが、1年おあずけされて
焦らされた夫と待ち焦がれた妻がどれほど燃えるか、考えたら萌えた!

 

 

BACK