世の中には、本当に芯から不思議なな人間がいるものだと。



「今日は絶対雨が降るから、出掛けるなら傘を持って行け」

「ううん、いい」

「100%降るぞ」

「いい」


アルヴィスはそう言いきって部屋を出て行くの後姿を、半ば呆れて見送った。






* Rainy × Rainy * 






まるで、大粒の砂を封じ込めた砂時計がひっくり返されたかのような音が耳を打つ。

「…降ってきたか」

アルヴィスは嘆息交じりにそう呟くと、読んでいた書物から顔を上げて格子窓の曇天を、眉根を寄せて眺める。
だが、それからふいと視線を逸らすと一人掛け用のソファーに身を沈ませ、頬杖をついて本へと視線を落としては横に羅列された文字を追っていく。
その間も、ライスシャワーの如く大地を叩く不思議なリズムはやむ事無く持続する。
アルヴィスは眉を顰めた。
次第に斜に構えて組んだ脚が、雨音に合わせるように自然と叩かれる。
コツコツコツコツ…まるでアルヴィスの精神状態を明示しているかのようなその拍は、アルヴィス自身から平常心を確実に奪っていく。
そしてその視線が文字の羅列を、通常道理に追えなくなった頃。

「全く…どうしてこう…あのバカっ」

そう盛大に悪態をついて、ソファーに持っていた本を放り出すとその代わりといってはなんだが、濃いブルーであしらわれた傘を片手に、ドアの向こうへと姿を消した。









空から真珠が降ってくる。
は街路から少し外れた小道の、古ぼけた小屋の軒下に膝を抱えて座り込んでいたが、不意に腕を伸ばしてその形無き真珠の感触をその表面で受けとめる。
体を規則正しく嬲るその振動は彼女から熱を奪っていくが、なんだかそれはひんやりと心地の良いものだった。

「きもちい……」

はその腕を自分の所へと引き寄せて、雫に濡れた腕で自分の頬を撫でた。
つぅ…っと腕から頬へ、頬から首筋へとその感触がなぞる。
服が濡れてしまうとかそんな逡巡はの中に沸かなかった。

「これだけ濡れれば一緒よね」

は自分の服を抓んで納得する。
白い長袖のワンピースは肌に張り付き、重みを増している。

『傘を持って行け、知らんぞ』

頭の片隅で、男にしては甘い周波数の咎め言が響く。
はふふっと笑った。
そして腕に抱え込まれた膝の上に突っ伏して、ただその雨粒の数だけ聞いていた。


するとザリと砂利を踏み込む足音がの目の前でする。
はふと顔を上げた。

「何やってるんだ、こんな所で…」

その不機嫌極まりない声は、あの甘い周波数。
軒を隔てて、そこに立っている影は憮然として傘を片手にを見下ろした。

「雨宿り」

見れば分かるでしょう?と別段悪気も無く、はただ小首を傾げた。
その明らかにフツウの少女とは異なった不思議な雰囲気に、目の前で眉を顰めていたアルヴィスも飲まれそうになる。
は嬉しそうにアルヴィスを見上げた。

「迎えに来てくれたの?」

それを素直に肯定できるアルヴィスではない。
率直な物言いにアルヴィスは僅かに赤らんだ顔をを傘でさり気無く隠す。
するとはふふっとまた含み笑いをし、アルヴィスへとその白い指を伸ばした。
アルヴィスはその差し伸べられた彼女の手と、なにか判然としないものを求めているであろうの顔を見比べるが。

「ほら、さっさとしろ…」

埒が明かないと判断して彼女の手に自分の手を添えると、を引っ張り起こす。
その瞬間に、アルヴィスはカッと血が上るのを自覚した。

…おまえ」

思わずどもる自分の言葉に、再び血が顔に集中するのを感じた。
はそのアルヴィスの視線に気づくと、ふと自分自身に意識を巡らせて。
そして、なんてことは無い様子で合点する。

「濡れたから透けちゃった」

白いワンピースは雨が浸透し、肌に張り付いての綺麗な体のラインをまるで裸で往来にいるような風に見せていた。
白という色が災いしたのか、その布の奥には人肌の色が見て取れる。
勿論、下着の線など透視したかのごとく見透かせる。

「へん?」

変とか言う以前の問題なのだが、は両手を広げてアルヴィスに自分の風体を尋ねた。
アルヴィスはふいっとから視線を逸らすと自分も軒下に入って、持っていた傘を濡れていない地面に置いた。
そして徐に自分の上着のチャックを下ろして脱ぐと、それをの体にふわりとかけた。
視線を可笑しなとこに向かせたまま、俯き加減で呟く。

「風邪を引く…」

本心か否か、アルヴィスはに自らの服を掛けてその襟元をきゅっと止める。
少し大きいアルヴィスの上着はすっぽりとの太腿までを覆った。
はそれに少し驚いたように目を見張ると、今度は困ったように小首を傾げる。
そして何も言わずアルヴィスの腕に手を当てると、そっとその腕にキスを落とした。

?」

上着の下は黒いタンクトップのみを着用していたアルヴィスは、その刺青に犯された腕をむき出しにしていた。
愛しそうにその腕を撫でるに、アルヴィスは苦笑した。

「いいんだ、別に」

そして地面に置いた傘を拾い上げると、を手招きしてその傘の中に彼女を優先して入れる。
はぴったりとアルヴィスに抱き込まれるようにして傘に入ると、ふとその端正に整えられた横顔を間近に見つめる。
そして……。

「アルヴィス」

彼の名前を呼んだ。
するとそれに応える為にアルヴィスがこちらを振り向く、その時。

「ありがとう…」

はつぅっと爪先立ちに立って左手をアルヴィスの首へ、右手で彼の傘を持っている手を下へと下げる。
通行人が足早に通り過ぎる中、そこに青い花だけが一輪咲いていた。


……」
アルヴィスの唇から甘い吐息が漏れる。
はふっと唇からアルヴィスを解放して、そしてふふっと含み笑いをする。

「アルヴィス……好き」

は真っ直ぐにアルヴィスを見つめて呟くと、往来から二人を隠していた傘をスッと天へと向ける。
アルヴィスは、紅潮した顔で口元を手で覆う。
そして、目元を染めたその顔を悟られまいと憮然とした声音での肩を抱いた。

「早く帰るぞ」

そう狭い傘の中、二人寄り添って歩いていく。
は笑った。

「何がおかしい」

彼女はアルヴィスの上着の襟元を寄せて、その布の内で呟いた。

「アルヴィス…、アルヴィスの匂いっていい匂い」





「……うるさい」



 

 


あとがき

 

頭上から常にシャワーを全開にして、水も滴るイイ○○○にメルキャラをし隊☆発足!?(それはイジメですよ?)

ハイ、いきなり!雨の日のお迎えの傾向と対策☆(ナニそれ)

アルヴィス→四の五の言わずに上目遣いで訴えてみましょう。きっと怒らない筈です。その際、濡れ
てみるとより効果的です。沈黙の後に呟く、微笑と「ありがとう」は必須!傘に入ったら積極的に手を握れ!

ナナシ  →アルヴィスとは真逆。甘えて抱きついて「大好きV」と言ってあげれば、怒ることなど無く、
ちゅーの一つも唇に。そして二人仲良く相合傘な事請け合いです。
こうすればかなり機嫌がいいので、お風呂にも一緒に入ってくれるかも?(むしろ誘ってくる)

ファントム→マンネリを何より嫌う彼の期待を裏切る為に、常備折り畳み傘推奨。自信満々で迎えに来
たファントムにそれをわざと見せ付けて彼を手玉に取れば、彼は貴女への新たな興味(征服欲)に駆られます。

あと、「いきなり!雨の日のお迎えの傾向と対策☆」を検証して欲しいキャラはいますか〜?(いないだろ…)
もし反応があったらブログかなにかで書きます。(無くても書くやも…)

嗚呼、長いあとがき…(しかもちゃんと後書いてない…)

 

 

 

 

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