まるで悪戯をして叱られた子供のように、は顔を伏せたまま何度も何度もあやまった。
それこそくびだけぽっきり、真ん中から折れてしまうのではないかと思うほどに。
何をそんなに謝罪するのか、アルヴィスは問おうかと迷ったが、所在無く宙に置き去りにされた自分の手と僅かに乾いた唇がすべてを物語っていると気づくと、それをやめた。
「……別に、そんなに謝るようなことではないよ」
嘆息交じりにアルヴィスが言うと、は涙目で鼻の頭を真っ赤に染めて彼を見上げる。
そして恨むわけではなく、恥ずかしさを隠すようにはアルヴィスの、男性にしては未だ未発達で少年特有の薄い胸板をこぶしで軽く叩き、彼を見上げた。
「ちょっと…、呆れてるくせに」
そう思ってるならそう言って、と懇願するようなその物言いにアルヴィスは苦笑いを浮かべて、宙に浮いた両手をやっとの両肩に置く。
やっと行くべき場所に辿り着いたと、両腕がほっとしたように感じたのはアルヴィスの思い込みではないだろう。
「そんなふうに自覚しているのなら、あんな場面で叫んだりしないでほしいな」
ふつうは女性の方が雰囲気を重んじるんじゃないのか、とアルヴィスはくすくすと喉を震わせて笑う。
彼のその様子に怒っているそぶりが見えないと、はほっと胸を撫で下ろしたがそれもつかの間、アルヴィスの言う『あんな場面』がすぐに脳裏に浮かんで、それどころではなくなってしまった。
「だって生まれて初めてだったからどうしたらいいか分からないし、そう思ったら頭の中がぐちゃぐちゃになって…・・・っ!」
かぶりを振って主張するに、アルヴィスは感情を揺さぶられて目を細める。
「ふぅん…はファーストキスなのか。それはごちそうさま」
敢えて今まで彼女が言わなかった事をあっさりと言い放ち、アルヴィスはとても満足げににっこりと極上の微笑をその美しい顔で模った。
ただその色がとても漆黒に近い印象を受けたのはの勘違いではない。
「まだ…ごちそうしてない!」
必死の抵抗とばかりにが耳まで真っ赤にして抗議したが、とうの彼はそんな事何処吹く風といわんばかりに笑顔のままで囁く。
「遅かれ早かれ――――だ」
その刹那アルヴィスはの瞳を左手で覆い、まるでそれがシナリオにでも書かれているかのように当然の如く、彼女ピンク色の唇に自分の唇を重ねた。
が視界を奪われた中で僅かに息を飲み込み、緊張に体を強張らせたのが分かる。
それを宥める為にアルヴィスは唇で優しく愛撫するようにもう一度かさねなおし、が緊張に引き結ばれた唇をゆっくりとほどく。
熱が戻ってくるのが分かった。
アルヴィスはそれを感覚で理解すると、惜しく思いながらも唇を離した。
「ホラ、言っただろう? 遅かれ早かれだって…」
そう言いながらの視界を解き放つと、彼女は頬を朱に染め上げながらも恥ずかしさを隠すように、アルヴィスの腹をこぶしでコツンと叩いた。
「…心の準備できてなかった…っ」
するとアルヴィスはニッコリと極上の笑みで応える。
「心の準備なんて互いが好きなった時から、できてただろう?」
それはの心を見透かすような、ひどく心が揺さぶられるアルヴィスの囁きだった。
〜END〜