チェスの司令塔が永い眠りから目を醒ました夜、制圧した城ではこれから行われる血の狂宴を湛える前夜祭がとりおこなわれていた。
「へぇ〜チェスって一体どんなモンなのか今まで全貌がさ〜っぱり掴めなかったけど、意外にヒトがいるもんなんだなー?」
6年前の大戦の際はチェスに所属していなかったイアンは、ファントムの復活で一同に会したチェスの面々を石畳の床に座り込んで眺めながら、ボソリと呟いた。
「当たり前です。世界にケンカ売るんですよ?」
イアンの隣にちょこんと並んでいる少女のロコが即答した。
ナリは10歳程度でも実質34歳、前大戦の経験者でもある。
「でもどーせナイトは13人でその上だって2人いるのみっしょ?つー事はほとんどがザコじゃん」
「それってアンタも私もザコってこと〜?」
突然見知らぬ女が、イアンとロコの間に割って入った挙句二人の肩に腕を回す。
イアンは酒が入ったコップを落としそうになりながら、ぎょっと目を見開いた。
「よろしく〜私はビショップ。前大戦経験者だけど歳はまだ24よ」
女は相当酔っているらしく、酒の匂いをさせながらイアンを抱き寄せる。
「いや聞いてないし!つーか結局誰!?」
「ビショップのです。正直ロコ、苦手です」
イアンの疑問にいち早く答えたロコだが、彼女もまたの拘束を逃れようと全力で彼女の腕を跳ね除けようとしていた。
だがイアンにも解く事が出来ないような力だ、ロコに解けるはずが無い。
「無理無理〜、私パワーファイターのネイチャー系だから♪」
あっけらかんと笑い飛ばして、は上機嫌の様子で宴の行われているフロアを眺める。
そしてイアンに顎をしゃくって見せる。
「ホラ見てみなよ、ゾディアックが全員揃ってるなんてレアだよ〜」
イアンはの言葉につられて、その方向を見た。
確かにそこには他とは格段に魔力が違う者が13人いる。
「……ナイトってみんな前大戦経験者なのか?」
イアンが思わず聞くとは相手にされた事が嬉しくて、上機嫌で答える。
「うんにゃ、全員じゃないね。ファントム親衛隊の3人組もキャンディス嬢しか前大戦では実戦に出てないね。ペタは出なかったし、前大戦からナイトと言えばハロウィンとラプンツェル、コウガくらい。あとはアッシュにガリアン、キメラにロウって結構新参者が多い」
案外入れ替わり激しい大変な世界だよ、とはにやりと笑った。
「ふーん、じゃナイト狙うならドコが狙い目?」
イアンはもし他のものが聞いていたならばルークのくせにと嘲笑われそうな事を堂々と、真正面から尋ねる。
するとは一瞬目を見開いたが、すぐに嬉しそうな表情をした。
「実力的にはコウガとか倒しやすいだろうね。ビショップ仲間でも狙うならあそこのポジションって言ってるし。でもアンタにおすすめの狙い目はラプンツェルだよ。ラプンツェルは速攻が凄いけど魔力の練り上げが雑で、少々集中力に欠けるから上手くそれを乱せれば勝てるかも」
勿論相当実力をつけないと無理だけどね、と言い笑う。
そんなの横顔を見て、イアンは感心したように呟いた。
「へぇ……オレッちがナイトになるって言ってもバカにしないんだ?」
するとその呟きを聞いたは真面目な顔で微笑むと。
「誰だって最初は下の級から始めるんだよ」
だからガンバレ、とそう言ってはイアンの肩を抱き寄せる。
酒の匂いが鼻先を掠ったかと思ったら、イアンの目の前にはの顔があった。
唇の感触がする、と思ったのはの顔が離れてからの事。
「ロコ、酔ったは苦手です。キス魔だから」
「……ロコちゃん、言うの遅い」
呆然としたまま、イアンはコロコロと笑うの向こう側にいるロコに抗議した。
だがロコはそんなイアンを突き放す。
「ロコは女です。イアンは男だからキスくらいされたっていいじゃないですか」
「イヤ……でもロコちゃん」
言われた事に少し照れたのか、イアンは頬を紅潮させて言い淀む。
イアンの唇には、酒の匂いとの唇の感触だけが残っていた。
〜END〜