さて、どうしたものかとナナシとガリアンは顔を見合わせた。

「現状は由々しき事態だぞ…、ナナシ」

「んなコトは言われんでも分かる…」

そう示し合わせて、二人は閉口頓首した。
その時ほど、彼らは自分が大人であることを恨めしく思ったことは無い。






年の始めは姫君と♪







雪がうっすらと大地に化粧を施す新年。
新しくスタートをきったメルヘヴンは何処か浮かれた雰囲気に満ちていて、それは盗賊ギルド・ルベリアも例外ではない。
というかルベリアときたら、大晦日の前日から新年へと日付が移行するまで、騒ぎ通しの呑み通しだ。
まあ、普段ならARMやお宝目当てでメルヘヴン中を飛び回っている盗賊のファミリー達が、新年だけは全員帰ってくるのだからそれも頷けるというものだ。

「にしったってお前らちょっと飲みすぎだぞ」

盗賊ギルド本流所属のは、へべれけに酔っても猶飲み続ける危険なファミリーに呆れる。
だが、の忠告を気にする様子も無く、ファミリーは彼らからしたら生意気な天使と言ったアイドル的存在の彼女の頭をぐりぐりと撫でた。

「だーっ、うっとおしいなぁ!」

ファミリーの盗賊たちは、まだ未成年のの忠告など、自分の娘が父親に小言を言っている、位にしか考えていないようだった。
それには頬を膨らます。
それがより自分の表情を幼く見せていることにも気づかずに…。

「私だって、もうナナシやガリアンと一緒に仕事をこなす同志だぞ?子ども扱いはよせよっ」

そう言って、ははたと我に帰る。

「あーもう、チャップにお酒はダメだったら!」

彼女はモックやスタンリーたちに酒を飲まされて、くたっと赤ら顔で床に突っ伏しているチャップを抱き上げると、目くじらを立てて紛糾する。

「ったく、私のことをコドモっていうんならあんた達もオトナらしくしろっ!」

チャップにお酒なんか飲ませてそれでもオトナか、とはキリキリ怒鳴る。
するとファミリーたちはやれやれと首を竦めつつ、からからと笑った。
そして一人の盗賊がみんなにこう、提案した。

「ほんじゃ、の言う通りにオトナらしいことでもしに、街に繰り出すかぁ?」

そう言うと、そこにいたルベリアのファミリーたちは一様に歓声とどよめきに包まれた。

「おっ、いいねぇ♪」

「じゃあ、行きますか?」

などとにやにや、子供みたいな笑みを浮かべて皆立ち上がる。
は急な展開と、仲間の言葉の意味が分からず困惑する。

「な!?ど、何処行くんだよ」

そう言い澱みながら聴くと、仲間の一人がの頭をポンと叩いてニヤッと笑った。

「ボスたちに聞いてみな♪」




*           *          *




は遠慮もなしに、珍しく二人静かに杯を傾けていたナナシとガリアンの部屋(正式にはガリアンの部屋)へと意気揚々と入ってくると、とんでもない爆弾発言をかました。

「ねえ、姫始めってナニ?」

ガッチャン……ッ!!
ナナシとガリアン、二人同時に杯を床に落とす。

「あ〜っ!?何やってんだよ、二人ともぉっ」

は割れた杯を掻き集め、零れた酒を拭いて片付ける。
しかしナナシとガリアンはそれどころではない。
顔面蒼白、目を見開いて顔を強張らせて、二人焦点が合わない目で何かを凝視している。

「ナ、ナナシ…もしかして…いや私の聞き違いか? は今なんて言った?」

「…自分の、耳がヘンやないんやったら………姫始め…がどうとか…言わへんかった?」

いつもの勢いはどうしたのか、ルベリアのボスコンビは上擦った声で戦慄を感じる。

「姫始めとは…、あの姫始めか?」

「他にどれがあるん?」

あったらこっちが聞きたい、とナナシはガリアンに抗議した。
するとヌッと床を掃除してきたが顔を出す。

「知ってるな、二人とも」

ナナシとガリアンはビクッと肩をビクつかせた。
は二人が座っている椅子の前で仁王立ちしている。

「さあ、吐け!」

そう迫られた。
ナナシは顔を引き攣らせて、に尋ねる。

「っていうか自分、何処でそんなん覚えたんや?」

誰かが教えなければこんな事、精神年齢が幼いが聞いてくる筈が無い。

「さっき同志たちが、街に行くって言うから何しに?って聞いたら姫始めだ、って言われた。分かんないから教えろって言ったら、ナナシたちに聞けだって」

ナナシとガリアンはその時、明確に同志達に殺意を覚えた。

「あいつらエレクトリック・アイの刑や…」

ナナシの台詞に珍しくガリアンも異議を唱えようとはしない。
そればかりか、少なくともその表情が見えにくい顔には明らかな怒気が見えていた。
だが、そんな責任転嫁に怒りを燃やしている二人の気持ちなど知ったことではない。

「ね、なに?姫始めって!」

バキリと指を鳴らしてくるに、ナナシは眉を顰めた。
どうする?とガリアンに相槌をうとうとした時、ガリアンは不意に口を開いた。

「ナナシの方が専門だ。ナナシに聞け」

その言葉に憤慨したのはナナシの方だ。

「あ、ありえへん!仲間を売る気かいな、ガリアンッ!」

ナナシはガタリと椅子を倒して立ち上がると、そ知らぬ顔でツンとすまし顔で腕組みをするガリアンに食って掛かる。
だが。

「…ねえ、いい加減答えてくれない?」

ガスンッッ!!
そういう衝撃がナナシとガリアンを隔てているテーブルに響くと、そこには僅かにテーブルがへこんで焦げた後が出来上がっていた。
勿論、の拳が炸裂したのだ。
ナナシとガリアンはいよいよ潮時を感じて顔を見合わせる。

「………せやなぁ」

先に口を開いたのはナナシの方だった。

「……食べること…かいな?」

なんと曖昧な表現だろうか。
しかしやっと事態が進行しだしたので、はふんふんと頷きながらナナシを見上げる。

「食べ物なのか?」

ナナシは目を逸らした。
そんな純粋な瞳で見つめんといて…と彼は力無く呟く。

「それ、美味しいのかな?」

は今度はガリアンに聞く。
ガリアンはこちらに矛先が向くとは思っていなかったようで、すっかり油断していた。
そのため僅かな沈黙の後。

「知らん」

即答する。
が、それはすぐにナナシにツッコまれた。
しかも有り得ないほど冷ややかな視線でだ。

「何いいコぶってんねん…。知らんワケないやろ」

「〜〜うるさいぞ、ナナシ…」

ガリアンは僅かに顔を紅潮させる。
はそんな二人のやり取りを見て、首を傾げた。
食べること?でも食べ物自体を射すわけじゃなくて…美味しいかどうかはガリアンは知らない?のか。
何故かますます理解できなくなっていった。

「………な、ソレって私が食べても美味いのか?」

純粋な瞳が眩しい。
ナナシとガリアンは思わず同時に視線を逸らして、震える声で言う。

「せ、せやなぁ…自分的にはある意味オイシイねんけど…君は…どうやろ?」

ナナシがそう言うとガリアンは最も卑怯な手で、自ら終止符を打った。

「……オトナになれば分かる。それまで待て、

ガリアンは疲れきった表情でそう告げる。
は眉を吊り上げた。

「それが分からないからオトナのあんたらに聞いてるんだよっ!!」

その当たり前といえば当たり前の台詞に、ガリアンはこめかみを押さえる。
ナナシは、もう降参といった表情で諸手を上げた。

「オトナにはな…どうしてもコドモには教えてやれへん諸々の事情があんねんで?」

わかって、。ナナシは泣き言のように言い聞かせる。
こんなナナシとガリアンは始めて見る。
は腰に手を当てて二人を凝視する。
ナナシとガリアンは少しビクつきながら、の二の句を待つ。

彼女は―――。



「じゃ、私がオトナになったら…ナナシかガリアンが姫始めを教えてくれるか?」

はニッコリ笑って言った。

ナナシとガリアンはというと。

「……自分でよかったら…」

「却下!」

「なんでやねん!?ガリアン横暴!!」

「お前は下心が見え見えなんだ」

「…それがメインやん。なに言うてんの…ガリアンのむっつりスケベ」

「なんだと!ナナシッそこへ直れ!!」

「いやや!!」


途方も無く、年初めから騒ぎ通したのであった……。

 

 

 


あとがき

よい子のみんなー、ご両親に「姫初め」を聞いたら二度とこのサイトに来れなくなるからねー!

おそらく突然の発禁処分、検索避けソフトに出会い系やエロサイト同等の扱いを受けるであろう。
本当はもっと厳粛な言葉だけれど、時に言葉とは俗人によって変化させられるのですよ(正当化)
てゆーか、そこまで言うならそれをテーマに持ってくるな!というのは正論。

そして年明けすらガリナナコンビで挑みたい、去年から変わらないこれが@ぽぷりスタンス(輝)
アニメルでは鎖に繋がれ、蠢く触手に喘ぐ苦しむナナシ。

せめてものお年玉だと言い張る@ぽぷりでしたー。

 

 

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