〜Myrtenkranz〜
ウォーゲームが休みの日、皆がまだ眠っているかと思われる早朝にナナシは一人部屋を抜け出すとレギンレイヴ城の城門をこっそりと抜け出した。
目的地は城から少し離れた所にある、野原。「…へぇ、こらエラいまた綺麗やなぁ」
そこは顔を覗かせて久しい朝日が照らす中、白く小さな花が絨毯のように咲き誇り、まるで大地がうねるように風に撫でられていた。
ナナシはそんな野原に視線を巡らす。
するとその絨毯の上に腰を下ろし、線の細い髪を靡かせている影が一つ。「…あ、おった♪おった♪」
その瞬間、ナナシはニヤリと笑って足音を立てないようにその影に忍び寄る。
こんな時にも役立つのは、盗賊のスキルだ。
そして気配を消したまま、後ろにしゃがむと素早く腕と脇の間に、腕を滑らすように差し入れて抱き締めた。「、めっけ〜」
彼女を抱きすくめると、彼女のぬくもり半袖から剥き出しの腕からダイレクトに伝わってくる。
それに満足していると、一見冷ややかな声が聞こえてきた。「ナナシ…セクハラで訴えるわよ」
「ええよ、別に」
が怒っていないことはその声音で何となく分かった。
そしてより一層、を抱き締める腕に力を込めるとは喉の奥で笑う。「…胸は触らないで」
触ってへんよー…と憮然と唇を尖らせて抗議しようとしたが、ナナシは気付く。
腕に妙に質量感を感じると思ったら…。「……君の胸がデカいのが悪いんちゃうの?」
腕の上にそっくり乗るような暖かいふくらみは、服越しでもマシュマロのようなやわらかみと風船のような張りが伝わってくる。
抱き締めたら無条件で肌に触れる胸なんて反則だ。
ナナシがそう思って物申すと、彼女は何か意味を含んだように笑む。「じゃあダイエットする」
「ゴメンナサイ」
思わず即答する。
悲しきかな男の性、とばかりにナナシは謝ると、彼女はナナシの肩に頭を預けて微笑んだ。
ナナシはその笑みを模る唇に吸い寄せられるように、自分の唇をそれに宛がおうとした、が。「そういえば、ソレなんや?」
ナナシはから腕を解き、隣に座りなおすとが手に持っていたモノを怪訝そうに指差した。
するとは何時もの冷静なテンションで、自分が手に持っていたものを一瞥した。
そしてしばらく思案を巡らせると、そのしなやかな指でナナシを招きよせる。「なんやねん、」
ナナシはきょとんとしながらも、彼女の手招きに応じて顔をの傍に寄せる。
その瞬間、ぽすんっと頭の上に何かが乗せられた。
ふわりと、ソレと同時に小さな天使の爪ほどの花びらがナナシの膝元にひらめく。「は、花冠?」
ナナシは自分の頭の上に乗っているものを確認すると、それに困惑して伺いを立てるようにの顔を覗き込む。
はそんなナナシの顔を見て微かにぷっと吹いた。「ナナシ、かわいー」
「お、おちょくるのはヤメテほしいんやけど…」
低く囁くようなの声の調子とうっすら細められた瞳に、少女らしくない色気を感じて、ナナシは眉根を寄せて苦笑する。
は膝を抱えて、ナナシを見上げるとふっと彼に手を伸ばした。
さらさらとクセのない榛色の長髪が、の指に弄ばれて風に舞う。「…レギンレイヴ城の庭の垣根に花が咲いてたの。それで作ってみたのよ」
は長い睫毛で縁取られた凛とした瞳にナナシを映して、唇の端を優美に持ち上げて微笑む。
ナナシの愛した微笑だ。「綺麗でしょ?」
彼女は顔を持ち上げると、立てていた膝を崩して横に座るとナナシの方へと、その細いウェストを捻った。
「ミルテの花っていうんだけど」
いい香りもするの、そう言い笑う彼女の笑みは先ほどのとはまた違い、今度は屈託の無いもの。
ナナシはぼうっとそれに魅入っていたが、が再び自分の髪に触れる感覚を感じ、我に帰る。
満足そうにナナシの髪を撫でるをじっと見つめた。そして。「…確かにコレ、綺麗なんやけどもなぁ」
そう言うとナナシは自分の頭からミルテの花冠を外すと、すっとそれをの透通るような茶髪の上にふわりと乗せた。
「やっぱりこれは、君の方がずっとお似合いや」
彼女の頭にまるで天使の輪のように輝くミルテの花冠を見て、ナナシは満足そうに笑う。
そしてそのままの首筋に揺らいでいた髪に自分の指を差し入れて、両手で頬を挟む。「ナナシ……?」
やんわりと抵抗できないように拘束された顔を僅かに持ち上げ、彼女はナナシのことをただまっすぐに眺める。
ナナシはその視線に、一瞬困ったように視線を泳がせて。「…これは……ほらアレや、芸術を愛でるのといっしょ」
そしてそのまま、軽く触れるだけのキスを唇に落とした。
それからしばらくしては、ずっと自分の頭の上に乗せられたミルテの花冠を、指先で触っていた。
ナナシは野原に寝転がり、のんびり空を泳ぐ白雲なんかを眺めている。「どないしたん?」
ナナシは花冠をしきりに指先で触っているを怪訝そうに見上げる。
はふっとナナシを見て、僅かに笑んで、ボソッと言い放った。
「ミルテの花冠ってミルテクランツって言われてて…」
そして。
「女の人がコレをつけると、『永遠の純潔』の象徴なのよね」
その言葉は普通に考えれば、相手をからかう為の軽口だとすぐにわかる筈だが、勤勉な性格の彼女が言うと、どんな呪いの呪文よりもはるかに恐ろしい言葉に聞こえた。
ナナシは顔を引き攣らせて飛び起きると、ぱしっとの頭からミルテの花冠を取り上げる。
「あ、アカンッ!前言撤回!この花冠はワイが一番似合うっ!!」
そう言ってナナシは自分の頭に再び花冠を乗せた。
ぜーぜーと切らした呼吸に、男として彼女に望む下心と、必死さが窺えたが。
「ふふ…、やっぱりナナシ、かわいい」
はナナシの頬に指を滑らせると、ナナシの行動を深く追求することも無く、微笑んだ。
あとがき
ナナシにならセクハラされてもよいと!(ん?)
そう意思表示すれば、@ぽぷりは一生セクハラに悩まされる事はないかもしれん。
その代わり危ないヒトだと、近寄るヒトも減るかもしれんがな!以前、ある漫画の問題提起でこういう感じのセリフがありました。
「オレみたいなオヤジはイヤで、キムタクならセクハラされてもいいっていうのか!それこそ差別だ!!」
…みなさん、置き換えてみましょう。「オレみたいなオヤジはイヤで、ナナシならセクハラされてもいいっていうのか!それこそ差別だ!!」
………。
イィに決まってんだろ!!アホかっ、オマエッッ!!!
何故オッサンが自分主観で女におさわりしますか!
どんな権利ですか?
そんな権利が世に野放しにされていると言うのなら…、@ぽぷりが真っ先に美人ちゃんたちに特攻しますが、何かー!?(言い逃げ)