「ナナシーッッ!!いやん、今日もかぁっこいいー!!」

早朝一番、きゃっきゃっと笑みを振りまきながらルベリアのホールに続く階段を降りてきて、ナナシの目の前でピンク色の文言を並べ立てる。

「そのサラサラの金髪も〜逞しい体も〜甘いマスクも〜、ステキーッッ!」

もう全部ステキー!と叫ぶのは、ルベリアはナナシ直属の部下のだ。

「ちょっとボス…、を何とかしてくださいよ……」

キーンと耳を劈くその声に、同志はボスに直訴するがそのボスの反応は至ってシンプル且つ、合理的なモノだった。

「何故だ? 折角ナナシが全ての厄介を背負ってくれているというのに」

ルベリア盗賊団の首領・ガリアンのその一言に、全ての事案は集約された。

 

 

じゃじゃ馬コントローラー

 

 

それはガリアンが酷い怪我を負ったナナシを拾ってきた日からだった。
それまでルベリアのボスであるガリアンにべったりだったのヒューズは、ぷっつりとナナシを一目見た途端に切れてしまった。

「運命の出逢い!!」

そう目を輝かせたは、その日からナナシの虜。

 

 

「朝からあれでは疲れるばかりだな、ナナシ」

ガリアンは同情にも似た表情を携えて、酒場のカウンターでホットサンドを頬張っているナナシの横に座ると、ナナシとガリアンに手を振りながらも、傍らでおそらく何事か余計な事を言ったのであろう同志に見事な蹴りを食らわすに呆れを全面に出した表情をする。

「どうしてアレはああなんだ…」

元気の塊ともいうべきを眺め、ガリアンはほとほと呆れた。
かつては自分に対して「ああ」だったを思い出し、ガリアンは僅かに身震いする。

1.朝っぱらからおはようのキスをねだる為、より早起きする事が習慣化

2.書物を読もうとソファーに座ると、膝の上に座ろうと飛び込んでくる

3.夕食時には「ハイ、あーんして」を強要

4.風呂に入れば背中を流すと入ってこようとするものだから、リラックスできず烏の行水状態

5.奇襲(夜這い)


「……最悪だ」

その過酷さはあの強者のガリアンに嘆息を零させるほど。
だがそれも今となっては過去の産物なのだから、ガリアンにとっては素晴らしい出来事だ。

「毎日がストレスの連続だったからな。お前が厄介を引き取ってくれて有り難い」

その顔色は虚ろそのもので、どれほどのアタックがガリアンにとって過酷だったかが分かろうものだ。
だが、ナナシはというとホットサンドとコーヒーを腹に収めると、さも不思議といったように小首を傾ぐ。

「何がタイヘンなん?可愛いやん、

どうやら天性のプレイボーイとして生まれたナナシの前には、かのじゃじゃ馬も無問題なのか。
ガリアンは呆気に取られた。

「……お前、実はすごいのかもしれんな」

ガリアンは褒めているのか褒めていないのか全く計り知れない調子で、ナナシを持ち上げる。
ナナシは引っ掛かるものがあったのか釈然としない表情であったが、それはのピンク色の声によって遮られた。

「ナナシーッ!ね、ナナシ!抱きついていい!?」

見事に同志の屍の山(蹴り倒した)を築いたは、疾風のようにナナシのところに走りこんでは頬を桃色に染め、突然、おねだりをした。
そんなにガリアンの表情が引き攣る。
その表情は「何故何の脈絡も無くそのような行動に出るのだ、お前は」というの不可解な行動に対する、ガリアンの正直すぎる反応が滲み出ていた。
だが、ナナシは動じない…というかむしろ。

「ええよ〜、カモン♪

御機嫌な様子で両手を広げて、飛び込んでくるの細い体を抱きとめる。
あまつさえ…。

「やっぱもなんだかんだ言うてもオンナノコやな〜。コンディショナーのええ匂いが髪からするし、カラダもやわらかくってキモチええわぁ」

の頭を胸の中に抱き込み、彼女の髪の中に鼻先を埋める。
するとはほとんど昇天しそうな勢いで、顔を真っ赤にして喜んでいた。

「ナナシ〜、もうホントにカッコいい!!世界一ステキ!ホントに死んでもいいから…好きにしてーっ!」

「そんなん言うてもええんか?ホントに好きにするで?」

どういう売り言葉に買い言葉なのかは知らないが、ガリアンの理解不能指数は軽く彼の常識のメーターを振り切る。
自分はがこのような行動に出た時は、常に彼女を振り払ってきたのだが。

「……理解できん」

ガリアンは口を引き攣らせて、そういった。
するとナナシはきゃーきゃーと黄色い声を上げてナナシの背中に腕を回すを抱き締めたままガリアンを見やると、まるで彼に静かさを促すように人差し指を唇に当てる。
そしてガリアンをおちょくるように。

「ガリアンは女の子のエスコートの仕方がなってへんなぁ♪」

そう、に手を焼いていたガリアンに呟く。
流石にガリアンも男としてのプライドを傷つけられたのか、ムカッと青筋を浮き立たせて抗議する。

「…私はお前のようにどんなオンナでもいいという雑食系ではないからな」

ちくりとイヤミを言ってやればナナシはどんな顔をするだろうか。
ガリアンが小さな優越感を求めて言えば、それはあっさり打破された。

「どんな言い訳しても自分の勝ちやで、ガリアン」

ニヤッと笑ったナナシは、途端にを腕から解放する。

「え〜ナナシ〜、もう終わり?」

ナナシを見上げて唇を尖らせるは、幸福の時間が終わってしまった事に落胆を隠せず、素直に甘い不満を漏らす。
だがナナシはそんな不満も何処吹く風。
笑みを模ったままの細い腰に手を回すと、彼女の唇間際に自分の唇を持ってくる。
その触れるか触れないかのラインの唇で、耳に溶けるように馴染む深い声を紡ぐナナシ。


「今日一日、おとなしゅうしてレディでいられるんやったら、もっとサービスしたるわ。仕様で…♪」


これは物凄い破壊力を持った核爆弾だった。
それを口元で呟かれたは、ナナシの不用意に流された色気に中てられて、まさに文字通り腰砕けになってしまった。

「……うん、ナナシ。言う事聞く、言う事聞くからね……」

とろんとした目で言うは、先程までの騒々しさが嘘のように大人しい。
ナナシはそんなをもう一度抱き締め。

「やっぱカワええなぁ、は」

彼女の頭を撫でて、ナナシは呆気に取られているガリアンに勝ち誇った笑みを向けた。

「こうすんねんで? 女の子のエスコートっちゅうんは――――」

そう言うと、ガリアンはナナシを凝視したまま一筋の汗を流して…。





「悪い大人だな、お前は……」

そう一人ごちて、引き攣った顔で僅かに笑った。


 

 

 

 


あとがき

 

今回は 全日本ナナシを愛し隊 の皆様の気持ちを代弁してみました!!(そんな隊は無い…)

ちなみに@ぽぷりがMARキャラにLOVEコールを贈るならば…ガリアンにしますね。
何故ならば今なら競争率が
ジャックより低いんですもの(微笑)←人気投票参照
もう…ガリアンにとっては、いっそ「嫌い」といわれた方が楽かと思われるけれど、愛ゆえです♪

そんなガリアン…萌えませんか?(何が)

 

 

 

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